北海道の鉄道の魅力(第5回)

以下は、19852月の乗車のメモから。

 

興浜北線は、天北線浜頓別駅1145分発の1両のベンガラ朱色のディーゼルカーである。乗車率は40パーセント程と意外に良い。鉄道趣味らしい若者の集団と買い物帰りのような地元おばさん達である。

次駅の豊牛の手前で、左手に流氷が見えてくる。

はじめは、小さな島のようだったのが、その後海岸にどどっと迫ってきている。ただし、場所によっては、沖合にも流氷が浮かび水平線を作っている。流氷がないところはぽかんと海が青黒くなって見えている。

少し小高くなった北見神威岬付近からの眺望には迫力がある。今の掘削技術があれば、トンネルで抜けるところを地形に忠実に車輪をキィキィ言わせながら、岬を約半周する。崖から落ちないか心配になるスリルもある。

その先の斜内(しゃない)駅と目梨泊駅で、若者が下車していく。無人駅のそばに何かがあるわけでもなさそうなので不思議だったが、この列車の折り返しの景色を写真撮影するために神威岬まで行くのかもしれない。女性も混ざっているグループだった。山臼(やまうす)乗降場(正式な駅でない仮の停車場)からは、流氷が完全に海を支配しているような景色となった。

北見枝幸1231分着。

興浜南線の終点雄武(おむ)行きの宗谷バス1310分発。バス停は、北見枝幸駅から歩いて少しの山田ストアという小さなよろず屋のような店の脇にあった。

バスに乗ったのは、自分の他は、鉄道少年3名、鉄道少女2名、地元の女子高生2名、子供を連れた奥さん2名、おじいさん4人の16名。

バスは、すぐに流氷を左に見える見晴らしのいいところを走る。流氷は陸地から4500メートルくらい先にまでびっしりと押し寄せている。その先には海が見えるが、水平線はまた白くなっているので、別の流氷が来ているのだろう。

対向車も少ない真っ平らな片側1車線の道を快調にバスが走る。時おり、トラックがスピードを上げてバスを追い越していくが、単調な雪景色の中をバスが制限速度で走る。こんなところにも家を建てて住む人の気持ちが理解できない。乙徳部、風烈布、小樽弁。僻地のバス停にしては、何か気になる響きの地名が続く。帯広あたりでは、西1234丁目みたいに将棋か囲碁のような機械的な地名であるが、アイヌの地名を漢字にあてたのだろうか。あるいは、開拓がされていないだけなのだろうか。

外は風が強く吹いているようで、低木が揺れている。右手は遥か彼方にまで不毛な草地が広がっている。

午後2時前だというのに陽が傾いてきた。することがないので、手帳に流氷の景色をスケッチしてみる。

音標(おとしべ)着。バスはその先、しばらく誰も降ろさず、誰も乗せず快調に走る。列車よりもスピードが出ているように思う。

前の席に座っていた人が郡界で降りて、見晴らしが良くなるが、バスの暖房の利きがなぜか悪くなったためか、社内が寒くなる。

1420分の定刻に雄武に到着。

次の興浜南線は1520分発。少し時間があるので、近くの港まで歩いてみる。

流氷がこれでもかと港の岸壁に押し寄せていて、氷の天然芸術作品を見て回る。場所によっては、作品の上に作品が積み上がり物凄いことになっていて圧倒される。そんな景色をあちこち歩いて見ていたせいで、発車間際となり、駅に戻ってきてみると1両編成の列車の流氷側(左側)のボックス席はすべて一人ずつ占められていた。