客車列車にもう一度(つづき)

 (前項のつづき)

 九州では、筑豊本線の原田(はるだ)と桂川を結ぶ箇所と、廃止直前に乗った室木線(遠賀川-室木)にディーゼル機関車が引く客車列車が走っていた。原田から出る客車を牽引する筑豊本線ディーゼル機関車は、DD51という大型で、それが0番線という駅舎寄りの狭い場所に数両の客車を従えバックで入線してきたが、その姿を見てはワクワクした。さらに、1988年9月に赤字のため廃止となった筑豊本線の支線のJR上山田線(飯塚‐豊前川崎間25.9キロ)という炭鉱を結ぶ線でも客車列車が走っていた。

 この線は、3両程の客車を車両の入れ換えを助けるDE10形というという小型のディーゼル機関車が主に牽引していた。ここには1985年12月30日に訪れている。年末休みに訪問している。

 この客車列車に乗るために朝の8時11分にこの線の中心駅の上山田駅に到着した。ここ始発で、飯塚まで約30分掛けて客車列車が一日に4往復走っていた。 

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1985年2月の時刻表(日本交通公社刊)から抜粋

 今度の列車は、ちょうど折り返しの列車らしく機関車を前に付け替えるため、赤と緑の旗を持った駅員を先頭脇に乗せ、DEは一両ではずされて隣の側線をスイスイと身軽に動いて3両の客車の反対側に取りつく。その後、駅員が自転車に乗って列車の切り離しとポイントの切り替えを一人で行っている。ディーゼル機関車であるが、冬どきの冷え込んだ朝では客車の下からもうもうとスチームの白煙があがり、まるで蒸気機関車ででもそこにいるような景色であった。その始終を見てから乗り込む。客車は50系と呼ばれるエンジ色に塗られた自動ドアの客車だった(最前部のオハフ50 28に乗る)。方角的には、西に向かって走る。8時21分定刻発。発車する際にピーと警笛を鳴らすのがよい。が踏切があるたび、ピーピー警笛を鳴らすので少しうるさく感じるが、旅情はある。途中に漆生(うるしお)線と分岐する嘉穂信号場があり、一旦停止する。タブレットを交換しているはずが、それがよく見えず。次の大隈駅で交換した列車はDD51が牽引する客車列車だった。

 客車列車は80年代になると数がかなり減っていたが、時刻表で簡単に見分けることができた。それは列車番号という列車に固有の番号が時刻表の縦のラインの一番上に表示されているがその語尾にD(デーゼルカーの意味)やM(電車の意味)などのアルファベットがついていない数字だけの列車番号の列車が客車列車だった。時代は下って2020年4月時点では第三セクター長良川鉄道甘木鉄道などで数字だけの列車があるが、「全便レールバス」などの注釈があり、実態は客車列車ではなく列車番号の付け方が会社によって異なっている。

 客車列車カテゴリーの中でメジャーな分類として、ブルートレインがあるが、これはまた別のところで語りたい。

 客車列車は2020年時点で、JR九州の「ななつ星」のようなリゾート列車とSLやまぐち号などのSL列車、津軽鉄道のストーブ列車、並びにJR、大井川鉄道黒部峡谷列車、嵯峨観光鉄道や南阿蘇鉄道など第三セクタートロッコ列車で残っているだけである(規模は遊園地の列車のように小さいが、その他に和歌山県の元紀州鉱山のトロッコ列車、森林鉄道では、丸瀬布、赤沢、魚梁瀬などがあり、歴史の一端を見せてくれる)。

 その他、私鉄で過去に客車列車を最後まで所有していたのは、岡山県の同和鉱業片上鉄道[JR赤穂線の片上-柵原(やなはら):33.8キロ、1991年7月廃止]だった。

 ここは通常1両のディーゼルカーで運行されていた。その車両は年代物であったが、いつもきれいに整備されこの線だけに見られる前面の曲線が優しく癒し系の表情をしていた。これに加えて朝夕一本だけディーゼル機関車牽引の客車列車があった。客車は青く塗られ、寝台車は無いが、地元では「ブルートレイン」としても親しまれていた。列車の最後部には格子が少しあるデッキがあり、ヒトが乗っていなくても何か表情のある車両であった。ただし、自分は一度もこの「ブルートレイン」に乗ることが出来なかった。乗りたければこの沿線に一泊しないと乗れないような朝型・夜型のダイヤだった。この線自体がなぜか好きで好きで、当時の埼玉の自宅から休日に日帰りでこの線を乗りに何度か出かけた。線は廃止になったが、癒し系の車両を大切にしている地元の人たちが元の終着駅に近い山中に「柵原(やなはら)ふれあい鉱山公園」で、毎月一回展示運転をしているようである。

 その他、岐阜県の大垣から出る第三セクター樽見鉄道にも朝夕高校生の通学時の混雑緩和のために、開業直後の15年間客車列車が走っていた(ただし、2005年に廃止)。

 また、客車列車しかいない私鉄として北海道の三菱大夕張炭鉱大夕張線があったが、それについてはすでに別に一度書いたので割愛する。

 客車列車は自分にとってたまらない魅力を感じるのは、その列車の構成が分かりやすく、機関車がけん引するという鉄道の原型が残っており、加速が遅くてのんびり走る姿が懐かしく見えるからかもしれない。ただし、実体験できにくくなり、わかるヒトにしかこの魅力わかならいのかなと思うと少しさびしい。

(この項おわり)