やっぱ、北海道~(第23回)

新十津川駅札沼線


 札沼(さっしょう)線の新十津川駅は、駅舎は、おとぎ話に出てくるようなほのぼのとした木造の1軒屋ではあるけれど、終着駅としての存在感がない不思議な駅である。
札沼線という線そのものも不思議な線で、その名の通り、札幌と留萌本線の石狩沼田を結ぶ線として戦前に開通したが、戦時中は不要不急の線として休止されその後も利用者が少ないため、地元も合意し1972年に石狩沼田ー新十津川駅間が廃止された。その結果、新十津川駅は、行き止まりの盲腸線の終着駅となった。ところが札幌の郊外を結ぶ線として1991年に学園都市線などという別名を付けられ、途中の北海道医療大学前駅までは電化されて、現代的なロングシートの都市部の通勤電車が頻発している。
一方、北海道医療大学新十津川駅間は非電化のままで、1両のディーゼルカーが走り、どんどんダイヤが希薄になり先端部浦臼新十津川駅間(13.8キロ)では一日に1本になってしまった。2019(令和元)年7月18日現在、朝の9時29分に新十津川駅に到着した1両の列車が10時ちょうどに折り返すダイヤである。同好の士の間では、日に3本になったあたりからこれは廃線の兆候があるということで話題となっていた。ついに2016(平成28)年3月のダイヤ改正で終電が朝10時と日本一早いという線になってしまった。
ただし、この駅は山の奥のようなどん詰まりの駅ではない。その歴史からわかる通り開業当初は途中駅であり、地形的にも石狩平野の根元みたいなところに位置していて、何よりも石狩川を挟んで函館本線の特急停車駅の滝川から2キロ少しという場所である。
したがってというか、乗り鉄としては、新十津川駅に到着するのは盲腸線を気長く往復するより、滝川から移動して(時間の節約のためにはタクシーとなるけれど、路線バスの便も悪くない)、新十津川駅に向かいたくなる。また、乗ったとしても、新十津川からそのまま引き返すこともないだろう。滝川に向かえば、根室本線にもつながっているし、行く先も迷うくらいに鉄道旅の可能性が広がる。新十津川の地元のヒトも、札幌に出るにしても新十津川駅を利用せずにバスと滝川駅経由の方に足が向くということになり、朝10時に終電となっても特に困ることはないということになるのだろう。
そのために、存在感がうすい終着駅と感じるのかもしれない。

そして、2020年5月7日に北海道医療大学新十津川駅間の廃止が決定となった。

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                       (JTB時刻表2019年3月号より)


この線の初乗車は1985年9月30日(月)だった。この日は旭川で仕事があり、札幌に前泊し、札幌駅から早朝に札沼線に入り込んだ。この時には、札幌から新十津川駅に直通の列車が走っていた。

札沼線新十津川駅行は、9番線のディーゼルカー(キハ40)の5両編成。6時07発で下り列車なので5~6人/両という乗車率。
最初は、小樽方面を桑園まで高架で市街地を走り、そこから右に分岐して北東に進路を変える。
石狩川を渡ってしばらくして石狩当別6時53分着。改札にスタンプがあり、「きれいな空気を豊かな自然にめぐまれた駅」とあり、桑園と石狩当別間が開通して50周年とある。
8分間停車して、後方の4両を切り離す。札幌への通勤・通学列車になるのだろう。
こちらの1両に新たに乗ってくるヒトは、ほんのわずかだ。7時05発車。
左手に山が迫るが、石狩当別の前から続く単調な農村風景が車窓に流れ、列車の揺れが心地よい。山あいに近くなっているのか、木々が黄色く色づいてきているのに気づく。ときどき赤い実をつけたナナカマドが見える。
石狩月形7時34分着。客が少し入れ替わり、乗車率が20%ぐらいになる。その先、晩生内(おそきない)駅で、中学生の集団が乗り込んでくる。車内がやや活気づく。通学列車としての役割をこの列車は果たしているようだ。
朝早くには曇っていた空から朝日が顔を出し、左手(西方)遠方の山にその陽が当たり、木々の緑が映えて輝いて見える。
次の札的(さってき)では、乗り降りなし。その次の浦臼で、学生が全員降りていく。
ぱらぱらとした客を乗せ、まさに途中でちょん切られた感じで終着新十津川駅8時25分定刻着。
函館本線滝川駅への国鉄バスに乗り換えるため、300メートルほど離れた新十津川役場前まで歩く。バスは8時40分発と好接続。
石狩川を渡って約5分で滝川駅に着いた。そのあと9時03発の旭川行の特急ライラックに乗り、旭川に9時43分着。滝川では、ちょっと綱渡りのような乗り換えだったが、仕事に支障なく到着。

2回目の乗車は、2013年1月に旭川から富良野線に乗車し、富良野根室本線上り列車に乗り換えて、滝川から新十津川駅に向かった。28年ぶりの再訪だった。
11時33分に富良野駅を発車の根室本線滝川行きは、朝5時45分に釧路を出てはるばるやってきた1両のディーゼルカー(キハ40系)の快速『狩勝』だった(6時間以上走る日本一長時間走る列車として有名だったが、その後大雨による災害で、東鹿越ー新得駅間が不通となり、2019年7月現在この列車は走っていない)。その列車で定刻12時27分に滝川駅の1番線に到着。
次の新十津川駅から出る12時59分発の列車に乗り継ぐために、駅前でタクシーに乗り込む。道路の脇にかなりの積雪がある。運転手に約10分かかると言われたが、少し早く新十津川駅に到着。
ポツンと置き忘れたような平屋建ての小屋のような駅舎が雪を屋根に目いっぱい乗せて建っていた。その向こうに一段高いところがホームで、列車(キハ40)が1両すでに停車している。駅の幅を超えて列車がはみ出ているので、1両でも結構な長さに見える。

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自分が降りたタクシーの運転手に声をかけて、滝川までと言っている50歳くらいのおじさんとその連れの奥さんのようなヒト二人が方向転換したタクシーに乗り込んでいる。恐らく札沼線でここまで来たのだろう。気合いの入ったおじさんに比べて女性の方はあまり楽しそうな顔をしていない。駅前はかなりの積雪で正面の通路がきれいに除雪だけされているがその他はこんもりと新雪が積もっている。その中に三脚を立てて熱心に写真を撮っている60代のおじさんと大きなレンズをつけた立派なカメラをもってあちこち動き回る青年など、普通のヒトはいない。
無人の駅舎の中はきれいに整頓され、旅ノートが置かれ、スタンプも押せるようになっていた。駅舎側に片ホームがあるだけで整理券を取って乗り込むと駅と反対側は樹氷の林であった。駅の正面には、倉庫が立ち並び人々が乗りに来る気配もしてこない。
12時59分数人を乗せて定刻発。
駅を出るとたちまち両脇に雪原が広がるようになる。その中を今にも止まりそうなスピードでゆるゆる行く。
次の下徳富(しもとっぷ)左片ホーム。駅舎が雪で押しつぶされそうになっている。
更にその先の南下徳富も左片ホームであるが、ホームが材木でできている。そこに立派な駅標が建っているので短いホームが更に窮屈に見える。
ゆらゆら走って於札内(おさつない)。この駅は、降りる所だけ除雪されているがその先に通路が見えないので、降りてもその先に進めそうにない。恐らく困るヒトがいないのだろう。
浦臼は左片ホーム。初めて一人乗ってくる。思わず、いらっしゃいという気持ちになる。陽が差してくる。駅舎がコミュニティセンターになっていて立派である。
右手に針葉樹の林、左手が真っ白の雪原という景色が続く。
晩生内(おそきない)、右片ホームの小駅。新十津川駅に似た木造の駅舎がある。同じように山盛りに屋根に雪がある。
その後少し走って、札比内(さっぴない)。左片ホーム。この辺の駅名はアイヌ語の「ない」(川の意味)がついているものがいくつもある。すべて石狩川にそそぐ川のことなのだろう。駅のそばに日蓮のような像が立っている。その像にも雪が積もり、無人のちゃんとした格好で残る木造の駅が雪に埋もれてしまっている。
その後、山の中にさ迷いこむ。
豊ケ岡は、右片ホーム。山の中の停車場。
石狩月形は島式ホーム、4人乗ってくる。益々、積雪が増えてくる。ラッセル車が休んでいる。駅員もいる。
知来乙(ちらいおつ)は左片ホームの停車場。山の中の小駅。左右が、雪の壁になり景色が見づらくなってきた。
月ケ岡に近づき、人家が増える。左片ホーム。吹雪になって車窓が見えなくなる。
中小屋、左片ホーム。積雪2メートルくらい。ダルマ駅(使われなくなった貨物列車の車掌室を再利用した簡易駅舎)が雪に埋もれている。この辺は、日本海側の気候なのだろう。実家の豪雪時とよく似た地吹雪が吹いている。
その先、電化区間の始まりの北海道医療大学で、雪かき部隊がいた。2番線に3両編成の札幌行電車が停車中。吹雪がますますひどくなる。
14時20分定刻にこの列車の終着駅の石狩当別の3番線に到着。
次の乗り継ぎ電車は、先ほど北海道医療大学駅で見た電車が1番線から14時34分発。
石狩当別駅は、最近どこでも見る橋上駅。一応、キオスクもある。
乗り込んだ電車は、3ドアのロングシート車両。窓が大きく、吹雪の中を快調なスピードで走る。左側の窓に雪がこびり付いているが、右側はきれいに外の景色が見える。車内アナウンスはテープの音声だが、落ち着いた男性の声で、格調高い感じすらする。新千歳空港からの列車のアナウンサーと同じ声のようだ。
次の石狩太美(いしかりふとみ)、相対式ホーム。大学生らしき若者が何にも乗ってきて、社内も賑やかになる。トラス橋で石狩川を渡るとすぐにあいの里公園。相対式ホーム。下り列車と交換したあと、とろとろ走って、あいの里教育大、相対式ホーム。大勢乗ってくる。札沼線は線自体が、ヒトのライフサイクルを見せてくれる線のようにも思う。1両のディーゼルカーが往復する先端の部分とこれからの未来を嘱望される札幌近郊の電化部分。共存できずに前者が廃止になるのはやむを得ないのだろう。
新琴似で、駅が高架になる。札幌の市街地に入ったようだ。列車が函館本線に合流するため、どんどん左カーブしている。その途中駅、八軒。桑園手前で、合流。
桑園は島式ホーム2本の高架駅。4番線に到着。ホームに蛍光灯が点いているが、駅が暗く見える。
高層マンションが目立つようになり、札幌15時14分着。