やっぱ、北海道~(第21回)

(続き)

 乗車したこの根室行きのディーゼルカーの運転席脇にはオープンなデッキスペースがあり、そこから前方の景色が見放題という特等席になっていた。
 釧路から一時間半以上じっと座っていたので、筋肉を伸ばして気分転換を兼ね、そこに立って前方を注視することにした。
 列車は小高い尾根のようなところを走っている。積雪が深い。ところどころに動物が線路を横断した跡が残っている。場所によっては、集団で渡ったような跡になっている。
 初田牛(はったうし)、左片ホーム。駅舎は、頑丈な鉄骨造り。
 別当賀(べっとうが)も同じだが、駅舎はダルマ駅舎だ。
 その先に、鹿がまさに線路を渡っているのが見える。列車が近づき、鹿は慌てて渡り終えようとする。列車もスピードを落とす。
 落石駅手前で、右側の草原に鹿が群れているのが見える。さらにその先の左カーブする線路を2つ3つと列をついて堂々と横断している。 

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 「ひどいですね」と自然に出た言葉に、それまで黙っていた運転手が反応し、いまの実情を説明してくれた。
 エゾシカは約1000頭いる。線路があるのでハンターが来ないため安全であることを承知しているようで、線路わきに出没する。毎日JR北海道内で5~10件の鹿の事故があり、そのうち7割が花咲線で起こっている。なので、(鹿のことを予測した)運転テクニックがないと怖くてここは走れない。線路わきに侵入防止柵を張って鹿の侵入をくい止めるのがいいとはわかっても全部に張り巡らせられないので限界があるとのこと。
 ネットなどで検索したところ、鹿が増えた原因はヒトがエゾシカの天敵のオオカミを全滅させたためという。そうなのかどうかわからないが、今更オオカミを増やすわけにもいかないだろうし、解決策は容易でなさそうだ。
 西和田駅には、ダルマ駅舎。周囲に人家も見えるのにこのお粗末な駅舎では悲しい。
 次に、2016年3月に廃止になった花咲駅の跡があるはずだったが全くわからず。花咲灯台を訪れたことがあるが、線路は内陸を走っているので、沿線からは影かたちも見えない。
 東根室、右片ホーム。ホームは、木でできている。この粗末なつくりはJR北海道特有。約30年前にも同じ停車場がたくさんあった。が、これを見ると北海道に来たことの実感がわく。ここは、日本の最も東の駅として有名。釧路から東進して根室を目指すので、根室駅が最も東であっても不思議ではないが、花咲線は終着根室駅の一つ手前のこの駅から左カーブして北西に向きを変えるのでこうなった。高校生が何人も降りてゆく。近くに学校があるようだ。

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 根室8時4分定刻着。右片ホーム。左側に側線が1本あるだけの行き止まりの駅。平屋のモルタルづくり。前回来た時と同じ建物だ。
 駅員はいるが、硬券の入場券なし。自動販売機なし、キオスクなし、駅弁なし。
 8時22分に折り返すが、何の食料の補給できないまま8時10分に改札が始まる。
 30人ぐらいが列をつき改札を抜ける。珍しいことに大きなカバンを持った中国人観光客らしいのはいない。
 日差しが眩しいので、右列の席に座る。
 前方に朝から缶ビールを3本並べて飲んでいるおじさんがいる。
 落石を過ぎて右側の丘を見ると、鹿が日向ぼっこをしてこちらを見ている。線路のそばに近づいてあわてて後退するのもいる。
 そのうち、ガガガと列車が急停止。
 ビールおじさんのビールが倒れて、それを元に戻すと泡が噴き出し、ズボンを濡らしてしまったようだ。狭い窓枠に缶を立てていたのが間違いでしょう。
 初田牛、乗り降りなし。駅の存続が怪しい駅になっている。
    浜中では3人が乗ってくる。
 往きでは通過した糸魚沢駅は、右片ホーム。どうしちゃったんだろうと思うくらい新しいロッジ風の小さな駅舎が建っている。
 さらに往きでは、まだ薄暗かった別寒辺牛湿原を左手に眺める。冬の大気でくっきりとしているが茫洋とした風景だ。雪のない、いい季節にもう一度訪ねてみたい場所だ。
 厚岸、若い女性が一人乗ってくる。
 門静(もんしず)から内陸に入って上尾幌、左片ホーム。下り線と並行ホームで渋谷駅と同じ構造。白い立派な木造の駅舎が建つ。その先は山の中に入り、登り勾配。右手の丘の上にも鹿がいる。
 短いトンネルを抜けて、しばらくすると下りになる。陽が当たったところの雪が解けて土が顔を出しているところに立派な角が生えている鹿がたたずみ、こちらを見ている。
 別保(べっぽ)右片ホーム。4、5人が乗ってきて立つ人がでる。
 右手に舗装道路が並走し、左手は湿地帯である。やがて川を渡ると湿地帯の真ん中を疾走するようになる。
 武佐(むさ)、狭い左片ホーム。その向こうに団地群が見える。
 右手は依然湿地帯だが、左手に人家が目立つようになり、釧路駅5番線に到着。10時45分。次の乗り換えは11時24分発の特急スーパーおおぞらで、帯広まで行く。
 発車する1番線に弁当屋がある。狙っていた花咲ガニの弁当は予約制だったので、タラバガニめしを選ぶ。大きな身が二切れ入っている。特急列車の中でいただくことにしよう。

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                      (この項、終わり)