やっぱ、北海道~(第20回)

vii. 根室本線(鹿、鹿、鹿)
 北海道の鉄道で近年特に話題となっているのは、鹿の被害である。
 最初の鹿の被害を初めて見たのは、知床半島にある宇登呂灯台への遊歩道を歩いた際に、周囲の白樺などの木々が、腰の高さで皮が剥がされ、多くが枯れていた。聞けば、エゾシカが食べたためらしい。さらに、道東の落石岬灯台では、灯台に続く木道を抜けると鹿の大群がいて、あちらこちらで群れていて、こちらを見ていた。
 2017年の全国2周目乗りつぶし旅で根室に向かう根室本線(通称、花咲線東釧路根室間)でも、線路を堂々と横断する鹿の群れに遭遇し、驚いた。これは、2、30年前にはなかった風景だった。
 
 2017年2月13日(月)に石北本線旭川から網走まで乗り(本ブログ第8回~第10回で掲載)、その後、列車から流氷を見るために釧網本線に乗車。網走から途中の知床斜里で列車を乗り継ぎ、釧路泊。
 翌朝5時35分発の快速はなさきに乗車し、根室に向かうため、ホテルを5時過ぎにチャックアウト(地図は、JTB小さな時刻表 2018年-夏より)。

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 まだ、夜が明けていないが、天気は良好そうだ。気温零下4度であるが、ズボンの下に履いたタイツが暖かいので、気持ちに余裕がある。
 釧路駅みどりの窓口には、昨日、2月15日に乗車する苫小牧―札幌間の特急列車の指定席を購入した時の女性の職員が今朝も座っている。宿直だったみたいだ。
 快速はなさきは3番線の1両のディーゼルカー(キハ54 524)。前日に乗車した釧網線と同じ形式のステンレス車両だ。リクライニングシートではあるが、固定式で真ん中から半分の席が反対向きになっている。車窓を楽しみにする乗客には反対向きはできたら避けたいところだ。
 景色というものは、先に小さく見えてそれがだんだんと近づき、それが次から次へと消え去るところに、新たな世界との遭遇のワクワク感と、潔くこの時間が流れ去る今を生きているという気持ちになる。反対向きであると、見えた景色が遠ざかっていくだけで、いつまでも視界に留まるので、これらのダイナミズムとは縁のない単調な眺めになる。
 さらに本車両の大きな問題は、リクライニングシートを後でつけ替えため(もともとは2人が向かい合わせの4人のボックスシートか)、シートと窓の位置がずれて、室内の壁が窓側になって景色が見えづらい席が少なからずあることである。その上、路線によっては、右列と左列問題があり、例えば狭い谷あいを列車が行く場合、左側の席では、崖のへりで景色が崖や森の眺めだけになるので、車窓を楽しむためには、反対向きであっても右側の席に座らなければならない。
 この花咲線も右側に湿原地帯が広がる景色が多くみられるので、右側に陣取りたい。終着根室の一つ手前の東根室駅は日本で一番東寄りに位置する駅でその駅は右片ホームの停車場でもあるので、この駅を見るためにはどうしても右側に座りたい。
 とはいえ、この時間発車の列車が混むわけはなく、席はよりどりみどりで、自分が納得できる右列の席に着いて発車を待った。乗客は、自分の他は鉄道少年3名のみだった。
 定刻5時35分発。テープ音声の案内が流れる。外はまだ夜明け前で何がなにやらよくわからないが、ここを往復するので往きに車窓が見ることができなくても気にならない。
 次の釧網本線との接続駅東釧路でも乗客は乗ってこない(結局12個先の厚床駅でようやく初めて乗客を認めた)。
 5個目の駅、尾幌(おぼろ)は右片ホームの小駅。貨物列車の車掌室再利用のダルマ駅舎が見え、周囲に牧草地が広がっているのが見える。その先に厚岸湾が右手に広がっている。日の出の時刻になったようだ。最初は紫にたなびく雲だけだったが、次第に朝日の登る地点が命を与えられたように濃い黄金色に輝き出す。湾内の赤灯台(右舷を示す航路標識)が明滅しているのが見える。

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 厚岸2番線着。右片ホームが並行して2本の線路。1番線に上りの2両編成が待機している。ここは、牡蠣めしの駅弁で有名な場所であるが、この時間に売っているはずはなし。
 その先、右窓は湿地帯〔別寒辺牛(べかんべうし)湿原:人の手が加えられていないという別寒辺牛川が厚岸湾河口に作る湿原〕となるが白く雪が積もっている。テントを張ってこの時間にワカサギ釣りをしているヒトがおり、歩いてこれからテントを張ろうというヒトもいる。
 列車はその先原生林を走る。右手の湿原には小高い丘があるので、その上から先ほど厚岸湾で見た日の出が何度も繰り返される。
 厚床、7時10分着。左片ホーム。モルタルづくりの駅舎が見える。
 高校生が3人乗ってくる。

            (この項続く)