やっぱ、北海道~(第17回)

(前回の続き)
 今回は、自分にしては珍しく、この鉄道の終点の町増毛で観光し1泊する。
 鉄道がなくなっても、町自体が同時に消えるわけでもないが、北海道のこの町に車やバスでやってくることが今後確率的にないだろうなという予感があり、また、ここは北前船の時代から開けた場所で、見所がありそうなので明るい時間に観光することにした。が、町の中心部のホテルは季節が良く飛び石連休のせいか満室で、町から少し離れた民宿しか予約が取れなかった。
 本日の見所としては、以下の二つ。
・留萌灯台とそこからの眺め
・日本最北の酒蔵「国稀酒造」で、国稀を試飲
 翌朝増毛発7時35分発の列車で引き返すので、観光するとしたら今日中。予約した民宿は地図上では確認できたものの、町から離れているので徒歩でどれくらいかかるかも若干気になった。
 留萌灯台に行く前に、手に入れておきたいものがあった。
 それは、増毛駅の入場券。面白いことに駅では販売しておらず、駅前の土産物屋にJRの通常の硬券と観光地の絵柄の入った少し大きめの硬券が販売されていた。それぞれ1枚170円。2枚ずつ購入。昔から、髪の毛が生えるご利益を期待するお守りにもなっている。神戸の会社時代の同僚でスキンヘッドのAさんに次回会ったらお土産にしよう。高知県を走る予土線に半家(はげ)駅があるが、無人駅なので入場券はないようだ。あっても買う客は少ないだろうが。
 そのあと、増毛灯台まで歩く。小高い丘にあるので登りである。最近はインターネットで全国の灯台を訪れた人が、道案内も兼ねて灯台にたどり着くまでの写真を掲載している。増毛灯台にも親切な案内があったので、それをスマホで見ていけば道を間違えることは少ない。6、7分ほど掛かって灯台に着く。白の四角い灯台に幅広の赤い帯が入っている堂々とした体躯である。もちろん、無人化されているが、周囲には雑草もなくきれいに整備されている。明治23(1890)年12月25日に初めて点灯された歴史がある。  最初は木造であったらしい。灯台の下から見る増毛の港の景色が素晴らしい。思わず深呼吸して、見入りたくなるような眺めだ。また、足元をみれば、雑木林の先、間近に増毛駅のホームが見える。駅からはちょっと遠回りになるので、何かこの視線のところをジグザグに通路でもできれば、気軽に景色を楽しむ観光のスポットになるように思った。
 次に国稀酒造に向かう。駅からの道まで戻り、その先を少し南西に歩いたところにあった。観光バスが何台も駐車場に止まっていて、店の前には多くのヒトがたむろしていてメジャーな観光地となっている。店構えは昔の雰囲気を残し、木造2階建て。「酒」という大書した布の書が店先に掛かっていて、ここが酒屋であることが分かりやすくなっている。酒蔵の中も見学できるが、時間が気になったので、試飲をいくつかして、先を急ぐことにする。ワンカップを2本と店の名前の入った紺色のTシャツを購入。
 さて、今日の宿の民宿へ向かうためにさらに南西へ伸びる国道231号線をてくてくと歩く。天気が良いので気持ちがいい。実は車があれば見たいものが一つあった。この先にコブのように海岸線が突き出た箇所があり、そこの背後に暑寒別岳(標高1492メートル)というどっしりとした山がある。その山容を一度見てみたいものと思う。歩いていて少し左手の前方が開けるとその山が見えるのではないかと期待してしまう。
 やがて川が海にそそぐところにカモメが大挙して舞っているところに出た。
 なんと、川にはサケの大群が泳いでいた。川幅は3メートルぐらいで浅瀬になっているので、たくさんの背びれが見える。川の近くまで降りていく道があったので近くまで行ってみることにする。
 多くのサケは疲れ切って、傷つき皮膚がボロボロになっている。産卵を終えた後なのだろうか。力尽きて水に漂い、天寿を全うしているのもたくさんいる。
 カモメはそれを狙っているのかどうか曖昧である。特に水面を注視しているわけではない。視線はあえてサケの方向を避け、風景を眺めているだけのようにも見える。たまたま、ここで羽を休めているようにも見えるが、エサが簡単に取れるようなこのような場所で冷静にしていることが不可解な風景だった。単に、すでに好きなだけサケを味わい尽くし、食後にくつろいでいるだけなのかもしれない。
 いつまで見ていても飽きない風景であった。自分の他にヒトがいないのも不可思議だ。新潟市村上市三面川の「イヨボヤ会館」のような施設をつくれば観光客もくるように思うが、そういう欲のない土地なのだろう。
 その先は少し登り勾配になるが海に沿ってさらに15分ほど歩き、ようやく右手に予約した民宿が現れた。
 鄙びた宿で、風呂は昔使用していた漁船の再利用で湯舟がしつらえてあった。
 ビールが飲みたいというと、では町まで買いに行きましょうとトラックの助手席に乗り出かけることになった。アルコールを置いていない民宿とはどうしたことかと不思議だった。缶ビールを2本買いにわざわざ町まで歩いてきた道を往復した。
 その夜は、波が海岸にぶつかる音を聞きながら遠くまで来た気分を布団の中で満喫した。

                         (この項終わり)